フィリピン版消費課税の嵐 2010年7月25日


日本では消費税引き上げの議論が活発だ。いくら国民の負担増になるとはいえ、政府としては財源を確保しなければ何もできない。借金だけに頼っていてはいつしか破綻して破産宣告をして借金を帳消しにしてもらうなどの処置を取らなければならない。そうなると国債に投資していた金融機関や個人も連鎖して破綻、まさに日本沈没だ。日本はなんともいえない難しい選択をせまられている。

 フィリピンではアキノ新大統領が就任するまでの半年間にアロヨ政権は大半の国家予算を使い果たし、新政権の政策に使える予算は年間予算の10%しか残っていないとアロヨ政権を非難している。しかし、アキノ大統領は増税や新税の創設をしないと宣言しているので、安易なVAT(付加価値税、消費税)をあげることは出来ない。賄賂や汚職をなくして、とるべき税金をとりさえすれば財源は確保できるという主張だ。ちなみにフィリピンのVAT12%と先進国並みの重税だ。また、フィリピンで所得税などの税金をまともに払っている企業は皆無だという。税務署が賄賂を見返りに積極的に脱税を勧めるというお国柄なのだ。しかし、現在は新政権の様子見で税務署も沈黙を守っているようだ。 

     CIMG8047s-1街中50m毎にあるといわれるコンビニエントストアの元祖、サリサリ・ストア(何でもあるという意味)。日常の生活に必要な品物は何でも売っており、タバコなどは1本づつ、携帯のロードまで10ペソ単位でばら売りをして庶民の生活を支える 
 

 そして、新政権が打ち出したのが、国民の40%が従事しているという零細自営業者への課税だ。現状、課税を免除されているサリサリ、トロトロなどの零細小売業、さらにマーケットの小売商、挙句の果てにトライシクルやパジャックにも所得税を課そうというのである。20ペソ以上の売り上げには領収書を発行して所得課税の基礎にしようというのだが、領収書の発行の手間や税金の計算だけでも大変な手間だ。

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(ウエットマーケットあるいはパランケと呼ばれる公設市場は市町村の中心部に位置して、一坪程度の無数の小売商が建ち並び、肉や魚、野菜や果物、乾物などあらゆる食材を最も安く求めることができる、庶民の台所だ)

CIMG0189s-1(また、古都ビガンの街では広場に露天商を集めたバザールを開いて商品を格安で売っており、まさに庶民の買い物どころとなっている

 サリサリやパランケの売り上げは1日せいぜい数千ペソで、仕入れ、人件費、家賃などを引いたら、利益はせいぜい数百ペソ程度だ。メトロマニラの最低賃金約400ペソだが、それに届くかどうかといったところだ。それに領収書発行の手間や所得税を払ったら、利益はなくなってしまうと、店主は猛反発しているそうだ。街角のトロトロにしても同様だ。

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(トロトロとは指し示すという意味で、調理済みの料理を指でさして注文することから来ている)、150100ペソ程度で食べられて、これもまた、庶民の味方だ。ちゃんと店を構えたレストランとなると100ぺソ以上300ペソ程度もかかってしまう。それにVATもかかる )

 一番可哀想なのはトライシクルやパジャックのドライバーだ。例え一日の収入が半分でも車両のオーナーにはバウンダリーと言われる定額の車両賃貸料を支払わなければならないので、学校の休みなど客の少ないときは持ち出しになることもある。そんな彼らから所得税をとろうなどという発想は貧困ということを体験したことのない富裕層出身のアキノ大統領だからこそできるのだろう。与党の下院議員も猛反発しているそうだ、こんなことをしたら、次回の選挙で当選するはずがない。これら貧困層はなんといっても国民の40%を占める大票田なのだ。

 方に行くと交通機関はジープニー、トライシクル(3輪オートバイ)、パジャック(3輪自転車)に限定されるといって過言ではない。街の角々には客待ちのトライシクルやパジャックが列をなしている。彼らの収入は、トライシクルで1トリップ往復で100ペソ程度、一日数回の往復で300500ペソ程度、車両の使用料150ペソを支払うと200~300ペソ程度の手取りだ。これに対しパジャックは一回510ペソで一日の収入は100ペソ程度、自転車の使用料、25ペソを支払うと、一日100ペソに満たない手取りだ

CIMG5761s-1(こんな過酷な労働を強いる商売でも長い列をなして客待ちをしなければならないほど供給過剰で厳しい情勢になっている。金を稼ぐのが難しければ使う人も少ないという景気の悪循環だ)

 

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