ある退職者の死の教訓(2)その3 2010年3月23日


Yさんの死により、ビザのキャンセル手続きが暗礁に乗りあげてしまった。

Yさんの失効パスポートと死亡証明書を持ってPRAにキャンセル手続きの継続を依頼したら、担当者の第一声はこうだ。

「入管の手続きはすでに完了しているものの、2万ドルの定期預金の引き出し許可証は、発行する相手が死んでいるので、家族の誰かが、家族であるという証明を持って受取に来て欲しい。」

このまま黙って引き下がるわけには行かない。状況を再度説明して、再検討を依頼したら、出張中の上司に相談して決定すると云うので、とりあえずPRAを後にした。もはやあせっても仕方がないので、とりあえず引き下がることにしたのだ。数日後、その上司に面会し、事情を説明した。上司は、これまでのいきさつを充分承知しており、かつ今回の事態がPRA担当者のお役所的対応の末に起きてしまったことを充分認識している。担当者を呼んで、1時間程度、喧々諤々の議論した。その結果、下記の結論を得た。

「この退職者は家族と縁が切れており、引き出し許可証を家族が受け取ることはありえない。一方、日本では弁護士が法定代理人として退職者の財産を管理している。したがって、、引き出し許可証のコピーに代理人である弁護士の署名をもらって、退職者本人の署名とみなす。許可証の原紙は、退職者からの委任者であり、かつ代理人の依頼を受けている私が受取る。それ以降、銀行からの引き出し手続きは委任状を持った私と銀行との交渉次第とする。」

まずPRAの攻略に成功した。翌日、引き出し許可証のコピーを受取り日本の弁護士へ送付、翌々日は許可証の原紙の受取と銀行への提出と、駒はとんとん拍子に進んだ。銀行は、「委任状については本店の法務部門の承認が必要」と事務的に言うだけだった。ここで重要なことは、ややこしい議論を避けるために退職者の死亡という事実を伏せておくことだ。そして、1週間後、銀行から「委任状が承認された」という連絡があり、胸を高鳴らせて銀行へ向った。2~3枚の書類に署名をして、待つこと約30分、ついに2万ドルの引き出しに成功したのだ。

銀行での引き出しに成功した後、そのまま大使館に向ってYさんの死亡届を提出した。大使館もすでに状況を知っているので、快く私の申請を受け付けてくれた。これで一件落着だ。私のなすべきことはすべて終わった。後は介護婦が2万ドルの現金を下ろすだけだ。

以前、報告したように、2万ドルは退職者と介護婦の共同名義の口座に振り込まれるので、退職者の死亡の事実が銀行に知れると、その口座そのものも凍結されてしまう恐れがある。したがって、この2万ドルを引き出して他の口座に移動してしまうまで安心できない。休み明けに引き出すこととして、銀行には現金の予約をしておいた。そして、月曜日、農場からの帰りの空港タクシーの中で、介護婦から「2万ドルの引き出しに成功した」との報告を受けて、やっと肩の荷がおりた。病院への支払いを完了して事務所に現れた介護婦の顔には安堵の笑顔が溢れていた。

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