用事があって退職者のゲストを伴って農場のあるビコール、タバコ市へ出張することになった。その話を横で聞いていたKIANは即座に自分も同行すると宣言した。一年ぶりの農場行きとなって、夏休みに突入したKIANをマニラに残していくということはありえないので、2泊だけだよと言い聞かせて同行させることになった。
NAIAターミナル3の登場口で、笑顔を押さえきれないKIAN、一本歯がちょっと気になるが
ひょんなことで日本旅行が実現したKIANにとっては、農場行きは当然のことと受け止めているようだ。幸い、早めにチケットを確保したこともあって、4人で1万ペソ強と、一人片道1000ペソちょっとという格安のチケットを確保することが出来た。
ボニファシオ・グローバル・シティとアメリカン・セメタリー、周りにいくらでも土地があるのにここだけに高層ビルがひしめいている
しかしながら、KIANはそのまま2ヶ月の夏休み中、農場に滞在しようと企みがあった。家族の誰か一人でも一緒に農場に滞在してくれればいいからと、私に執拗に頼み込んできたが、いくらなんでも2ヶ月も仕事を休むわけにはいかない。その代わり、ホリーウイークを長めに休んで、4月1日からホリーウイークの終わるまでの2週間、農場に滞在するということで話がついた。昨年末の台風で農場がかなりの被害を受けたので、その修復のためにも一石3鳥の休暇となるわけだ。
マヨン火山は残念ながら雲の中、それでも両手をひろげて大喜びのKIAN
4月18日(土)、パパカーネルが運転するハイエースでNAIAターミナル3へ向かうKIANは終始ご機嫌で、久しぶりのレガスピのエアポートにおりたつと、その喜びを全身で表していた。農場に到着すると、早速、お気に入りのプールで水遊び、さらにトライシクルで遊び、さらに動物たちとのあいさつに忙しい。
たったの2泊だからプールに水を入れることを躊躇していたママ・ジェーンを説得して水を入れさせたが、そんないきさつはお構い無しにKIANははしゃぎまわっている。
ダシン叔父さんのトライシクルはKIANの格好の遊び場だが、マフラーに足をふれてやけどをしてしまった
豚が丁度お産をした後で、9匹の子豚が可愛い。しかし、農場の主のカラバオは死んでしまったそうだ
二匹のサルが飼われていた。前回の訪問中に死んだしまったのだが、再び手に入れたようだ。しかし、どういうわけか2匹とも雄だった
農場にはママ・ジェーンのお兄さんのアラン一家が移り住んでいた。一年ぶりだから、赤ちゃんが子供になって歩いているのが当然だが、もう一人、赤ちゃんがいたので、混乱した。どっちがどっちなのかわからなくなってしまった。聞いてみると、つい2ヶ月前に新しい子供が生まれたのだという。なんともはや電撃的なすばやさだ。これでアラン叔父さんは3人の妻にと6人の子供を作らせたことになる。しかし、面倒を見ているのはこの二人だけで、あとは、元妻の実家やおばあちゃんが面倒を見ている。もっとも4人目の子供ヤナ(10歳)は元々農場に居候しているので、現在は一緒に暮らしてはいるのだが。ちなみにヤナのお母さん(アランの二人目の妻)は癌で他界しており、それまではダバオで生活していた。
アリヤナという名前のこの子は姉さんのヤナとほとんど同じ名前だ。
一方、アランの元妻(正式な妻)もアランと別れた以降、複数の男性と5人の子供を作っているそうだ。アランの前に一人、アランと3人、そして5人、合計9人の子をなしたという子作りの達人だ。長女のアライサは、今年20になるのだが、現在、レガスピの名門私立大学に通っている。将来クルーザー(豪華客船)の乗組員になって世界を回り、8人の兄弟を学校にやるのだと頑張っているとのこと。そのためにHRM(Hotel and Restaurant Management)を専攻しているとのこと。女性だから船乗りというわけにもいかず豪華客船=ホテルの従業員となるわけだ。曲がりなりにもOFW(Oversea Filipino Worker)になるのだから、給料はそれなりに良いはずだ。ちなみに日本の海運業界の船乗りの90%近くはフィリピーノなどの外国人で、フィリピン人船乗りがいないと日本の海運業界も成立しないそうだ。その証拠にマニラには船員組合の支部まである(アランが運転手として勤めていたことがあるので知っていた)。
この子は男の子だそうだ
翌日はバンを借りてマヨン火山の観光案内をする予定となっていた。主役は同行したゲストなのだが、ママ・ジェーンは気を利かせて15人乗りの商用のバンを手配した。そして、甥や姪、そして兄弟など、総勢13人の旅となってしまった。そいて前日の夜、KIANは自分が主役で、一緒に連れて行きたい従兄弟の名前を挙げた。何のことはない、全員の名前を挙げていた。
その時、ママ・ジェーンが冗談で「ダダ(私)を連れて行くな」と言ったところ、KIANが血相を変えて、「シニア・シチズンにたいしてそういうことをしてはいけない」と言い放った。そしてさらにジェーンが「ダダに食べ物をやるな」とたたみかけると、KIANが切れてジェーンに殴りかかって行った。ジェーンはKIANの反応に驚いて「冗談冗談」と必死に弁明したが、KIANは私のベッドにもぐりこんで、泣き続ける。ジェーンはKIANの必死の反抗に対して叱ることを忘れて、KIANの私に対する忠誠心は格別だと感心して、部屋から逃げ出していった。その後、KIANは私の傍らで30分近く泣き続けていた。
13人の乗客も悠々収容できるUV・Express Serviceのバン
観光コースは、マヨン火山展望台、カグサワ教会遺跡、MJGYハイランド、ランチそして闘鶏場で、マヨン火山を一周するものだ。ここに住んでいたとしてもこんな機会はめったにないことなので、ジェーンの兄弟、甥・姪、総出で参加、皆大喜びだった。
マヨン火山の展望台。遠くにタバコ市とタバコ湾が見える
カグサワ教会跡(カグサワルーイン)は15世紀に築造されたが19世紀に噴火で埋もれて塔だけが残り、今でも、ビコール地方の観光のシンボルで百軒近い土産物屋がある。KIANは、初め説明の看板を読んで欲しいと言っていたが、それが英語で書いてあるのを知って、自分で読み始めた。後で”わかったか”と聞いたら、”Yes”と自信ありげに答えていた。
教会の塔とマヨン火山がセットでなければならないのだが、残念ながらマヨンは雲の中だ
MJGYハイランドとはジェーンの所有物、全面にレガスピ・シティ、左にマヨン火山、裏はココナッツの山並みを望む絶景の丘で、市役所からも車来るまで5分程度の至近距離だ。ちょっと奥にはにハイランド・レガスピという造成地が売り出されているので、いずれここもかなりの資産価値が出るだろう。ジェーンはここに観光用の宿泊施設、レストラン、そして、パパ・カーネルの退職後に住む家を作ろうと思っている
マヨン火山の大噴火で飛んできたのだろうか、巨石を背にポーズをとるKIAN
レガスピ・シティをバックに大学生のいとこ達にじゃれつくKIAN(右の赤い服の子が前出のアランの長女・アライサ)
なぜか土地の一部に牛がつながれていた
レガスピでランチを取ったが、かつて毎週のように通ったアリバー・レストランで、ここの名物のアリバー・チキンを皆で賞味した。その時、コカ・コーラを子供達に振舞ってよいかとジェーンが聞いてきた。我が家ではソフトドリンクはご法度なのだが、ここでは、ご馳走にコーラが無いのでは喜びも半減するのだろう。この時だけと、OKを出したのだが、しばらくするとKIANが文句を言っている。ジェーンは他の子供にはコーラを注文したが、KIANには与えなかったらしい。馬鹿なことをするものだと、早速KIANにもコーラを注文してやったが、いくら水しか飲まないKIANでも、他の子供がコーラを飲んでいたら、我慢しろという方が無理というものだ。
大学生になった年長の子供達が10年以上前によくここで食べたと、懐かしがっていた
農場への帰り道、ゲストが是非というので闘鶏場に寄った。途中、大量のバイクやトライシクルが駐車しているところが、闘鶏場のあるところで、町に必ず一つある。子供達は車で待っていることにしたが、KIANは一緒に行くといって聞かない。しかしながら、マイナー(18歳未満)は入場不可と知って、すごすごと引き返すことになった。その代わり、農場で練習試合を見せることにした。中は大変な熱気で、男たちが賭けに夢中になっていた。
闘鶏場の前には大量のバイクが駐車している
男たちは手塩にかけて育てた闘鶏を大事に抱えて出番を待つ
MeronあるいはWala(青コーナー、赤コーナー)にいくら賭けると掛声を上げる観客たち
親指にあたる部分に刃をつけて蹴りあう闘鶏、勝負は一瞬で決まり、負けた闘鶏はオーナーの胃袋におさまる
農場に戻って、アラン叔父さんが闘鶏の勝負を実演してくれた、KIANは恐る恐る近づくが、勝負が始まると、一目散に逃げる。ちなみに闘鶏の値段は並みのテキサスと呼ばれるつがいで数千ペソ、チャンピオンともなると数万ペソの値段がつく。一方、食用の鶏は一羽100ペソ程度だ。
闘鶏は、雄の闘鶏を前にすると闘争心をむき出しにするが人を襲うことはない
闘鶏の戦いがはじまると、へっぴり腰で逃げるKIAN
今夜の夕食には農場で育てたテラピアをご馳走に供された。養殖池に行くと、赤い魚が大分いた。一方、鯉の池には一匹も鯉がいない。きっと台風で鯉が下流の池に流れ込んでしまったに違いないと思ったが、赤いのはレッド・テラピアで鯉ではなかったらしい。ジェーンに聞くと、台風で鯉は全滅したという(多分池から外へ流れ出してしまったに違いない)。そうなると今いるのは台風の後に育ったものらしい。ちなみにテラピアは半年くらいで成長して食用に供することができる極めて生産効率の良い淡水養殖魚だ。
見事なレッド・テラピアを前におっかなびっくりでポーズをとるKIAN
アレクサ(左から二番目)とタムタム(三番目)が母親の実家から帰ってきた。KIANの右にいる5人の子供(アレクサ、タムタム、ヤナ、アリヤナ、ジェルミー)が農場に居候している
夜の定番はカラオケ、アラン叔父さんが家中に響き渡る大音響で歌っているので、さすがボリュームを下げるようにたしなめた
早朝、頂を一瞬の間臨むことが出来た
最終日の朝、一瞬、その雄姿をかいまみせたマヨン火山、ゲストは私に指摘されて気がついて感激していたが、ほんの一瞬の出来事だった。そして、いよいよお別れの時がきた。このまま農場に留まるものと信じていたKIANは涙目になっている。ママ・ジェーンは、「台風が近づいているから、早くマニラに帰らないといけない」と嘘をついたそうだが、「KIANはそんな子供だましはもはや通じない。正直に話をして納得させるのが一番」と諭した。
出発のときが来て涙目のKIAN
レガスピ空港に到着すると、もはや機嫌を取り戻したKIAN、マヨンが思いっきり、その雄姿を見せていた