フィリピーノは何故嘘をつくのか(7つのYesの謎) 2013年6月9日 1


昨夜、夕食をとっているとき、おかずに出た、スープの具の魚がぼそぼそであまりにまずいので、二度と買わないようヤヤに申し付けた。一緒に食事を取っていたジェーンとキムにも同意を求めたが、はっきりした返事がない。それでもしつこく、何故おいしくないか、マグロにしてはおかしい、など、同じ話をぐたぐたと続けた。そうするとジェーンが堪忍袋の尾が切れたように、食事中に食べ物への小言はやめろ、それは神への冒涜だと言うのである。食べられるだけでありがたいと思え、出された食事は黙って食べ、もしもどうしてもいやなら手をつけないで、「まずい」などと決して口に出してはいけない、特に子供の前では禁句だと、と叱りつけられた。

CIMG8421s-4KIANの大好きなサイカでは、堅い焼きそばとエビフライ定食が、定番だ

 それに対して、私の抗議は続く。フィリピン人同士としてはそれはそれはいいだろう。しかし、外国人に接するときは大いなる誤解を生じて、摩擦の原因になる。口ではおいしいと言いながら、本当はまずいから手をつけない、外国人にとって、それは嘘つきと映るのだと。

 この日、たまたま、KIANと双子を連れて、あこがれのサイカに食事に連れて行った。いつもビーフ鉄板焼き定食では、物足りないだろうと気を利かせて、和風ハンバーグ定食を双子に注文してやった。これはアスパラ・ベーコン巻もついてフィリピン人に対しては定評のある料理だ。しかし、ハンバーグに乗っていた半熟の目玉焼きをフォークで突っついて、ちょっと味見をしただけで、二人とも決して手をつけなかった。おいしくないのかと何度聞いても、おいしいと答えるばかりで、KIANの堅い焼きそばのつゆをご飯につけて食べたりしている。いつものうれしそうな顔も全くないし、ヤヤもノーコメントで、当方としては手の打ちようがない。

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この日は、私が注文した冷やし中華にも手を伸ばしていた。お酢の味がする冷やし中華はKIANの苦手だったはずなのだが、ちょっと嗜好がかわってきたようだ

 夕飯の時のジェーンのコメントで、双子の態度が理解できた。双子は、口ではおいしいと言いながらも、本心は全く逆で、まずくて手が出なかったのである。他人がいくらおいしいと言っても、本人がまずいと感じて、手をつけないのだから、どうしようもない。いつもホットドックと目玉焼きを常食とし、チキンのからあげが最高のご馳走と思っているのだから、所詮、日本レストランでご馳走しても猫に小判なのは、わかっているつもりだ。私にとっての主賓はあくまでもKIAN王子なのだが、双子はKIANの家来だから連れて行かないわけにはいかない。

 以前、よく通っていたレストランで、隣に座った店のマネージャーからおすそ分けをもらったことがある。おいしいかと聞かれて、正直にまずいと答えた。そうしたら店中が爆笑に包まれた。さらにもう一度おいしいかと聞かれ、また、まずいと答えたら、さらにまた爆笑の渦。これは私が、あまりに非常識な答えを返したので、まるで漫才のように映ったのだろう。特に他人から勧められたものを正直にまずいと答える非常識な人間はフィリピンにはいないのだろう。おいしいけど、後で、とかあいまいな返事で、ごまかすのフィリピン流なのだ。

CIMG8576s-4お好みのビーフ鉄板焼きではなくて、和風ハンバーグ定食を注文され、それには全く手をつけず、ブスッとしながら食事をする双子

 思っていることを、そのまま口に出さないのはフィリピン人の特性で、彼らの言動を、その態度から理解することが重要だ。そうでないと、フィリピン人の心情を理解できず、変にギクシャクしてしまう。それを、嘘つきめ、などと思っていたら、100年フィリピンに住んでいても友人はできないだろう。

 大分前に、駐在員時代にフィリピンの文化社会人類学者の講義を受けたことがある。その中で、興味ある話題として、フィリピン人の「7つのYES」というのがあった。フィリピン人が例え「YES」と答えてもそれには7つの意味があって、それを的確にとらえないと、相手の真意は理解できないというのだ。

CIMG8558s-4家ではホットドックがと目玉焼きが主食。よくまあと思うほど毎日食している

①本当のYES
②よくわからないが、多分、YES
③わからないから、とりあえず、YES
④あなたがそういうのであれば、YES
⑤もしもそれがあなたの望みであるのなら、YES
⑥そのことは、私のほうが良く知っているから、YES

⑦もう会話を終わらせたいから、YES

 さしずめ、双子の和風ハンバーグ定食に対する回答は④か⑤あたりだったのだろう。

CIMG8605s-4KIANの主食はまだまだミルクだが、食卓では味噌汁にご飯を混ぜて食べるのが、最近のKIANの好みだ

 日本人にとっては、①のYESしかないから、後になって、あの時、お前は「YES」と言ってではないかと責めてみても始まらない。相手は、言葉のニュアンスを理解できない、何とアホな外国人と映っていることだろう。ここでは、嘘つきであるとか、正直者であるとか、そんな評価とは範疇が異なる。その点、YESに相当するオポというタガログ語を当てはめて見ると理解しやすい。オポはYESあるいははいと訳されるが、「あなた様の思し召しのままに」、と言うようなニュアンスの言葉だ。外国人に対し、オポの代わりにYESと答えることに、そもそもの誤解の出発点があるのではなかろうか。一方、このオポという言葉こそが、フィリピン人のホスピタリティ、優しさ、思いやりの原点ではなかろうか。それを嘘つきとしかとらえられない外国人はフィリピンに住む資格はない。


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One thought on “フィリピーノは何故嘘をつくのか(7つのYesの謎) 2013年6月9日

  • パサイ在住

    お金を出している人が、不味いと言っているのは良いと思います。ウチはそうですよ。
    神はいるかも知れないが、決してご飯をくれるわけでは無い、生活ができているのは、俺が仕事をしているからだ。
    納得いかないなら、出て行け。と言ってます。