息子が手塩にかけて育てていた黒豚が脱走した。黒豚の放牧地は金網で囲まれているのだが、黒豚が本気で体当たりすれば、ひとたまりもない。また、豚は地面を掘って、何か食べるものを探す習性があるので、フェンスの下も掘ってしまう。特に餌場の近くのフェンスはかなりへたっていた。
ちなみに黒豚のえさは、ぬかで、農場の米の副産物だ。だから、市販の豚の餌よりもかなり安くすむ。ぬかは、玄米を白米に精米する際に出てくるのだから、栄養豊富なはずだ。でも、それだけでは栄養が偏ってしまいそうだが、それは、放牧の良いところで、雑草や土の中の昆虫を食べたりして、元気に育っている。
そんな訳で、黒豚たちがこぞって塀の外へ逃げ出してしまった。目的は、単にえさ探しだから、畑の隅に行って、一所懸命土堀をしている。
すわ一大事とばかり、農夫のダニーを呼びつけた。いつも餌をやっているダニーの掛け声に黒豚は一斉にかけ散じた。ダニーは準備周到にぬかを持ってきており、黒豚たちはすなおにダニーの後を追って、一件落着となった。
まるで飼い犬のようにダニーの後を追って歩き去る黒豚たちは、とても可愛かった。息子が将来、農場経営の柱にしようと目論んでいるだけに、もしものことがあっては、心配したが、杞憂だった。