防災科研の台風災害調査に同行(その1 バギオ)2009年12月11日


   10月某日、独立行政法人 防災科学技術研究所の方からコンタクトがあった。このブログの台風の記事を見てのことだった。台風16号オンドイおよび17 号ペペンはフィリピンルソン地域に甚大な被害をもたらしたが、日本としてきちんと調査を行い災害の被害、原因などを見極め、将来の支援のよりどころとするというのが目的だ。現地調査はバギオとマニラのバイ湖(ラグナ湖)北方を中心に行い、その他、MMDA(Metro ManilaDevelopment Authrity)DCC(Disaster Cordinating Council)などの管轄官庁やADB(アジア開発銀行)、JAICAなどのヒアリングならびに資料収集を行なった。

  1126日、防災科研の一行はマニラ空港に到着すると、その足でバギオに向った。バギオに通じるケノン・ロードにさしかかったころはすでに暗かった。このケノン・ロードの被害がバギオへの物資の補給路を立ち、災害の被害を助長したのだ。ケノン・ロードの被害状況は帰りに調査したが、この1000メートル以上の高低差がある道路を昇りきると、そこにはバギオ市が広がっている。まさに天空の都市といえる大都市だ。この都市にいたる道はケノン・ロードとマルコス・ハイウエイしかなく、それが絶たれると空輸しか物資を補給する術がない。食料はそれで何とかなったとしてもガソリンや飲み水の補給ができず、一時、市民の生活は脅威にさらされた。 CIMG2117s-4   バギオには平地がほとんどない。したがって家や道路は急斜面に這うように作られている。市の建築許可を得ないで建設されている家屋も多く、それらが今回の台風で地すべりとともに泥流に流されるなど大きな被害を被ったのだ。

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  この付近は湖のそこのような地形になっていて排水暗渠でさばききれない水が流れ込んで一気に冠水した。水位はたちまちの内に上がって、10m程度まで達したそうで、当然周囲の家は水に沈んでしまった。その時の状況をバランガイ・キャップテンから説明を受けた。この地域の被害は充分な排水路を建設していない市の怠慢あるいは予算不足が原因と思われる。しかし、100年に1回といわれる大雨にインフラがついていくことができなかった、という見方も出来る。

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  街のあちらこちらに地すべりのあとが見える。これらはこれら山間部を切り開いて道路や住宅地を開発したためではあろうが、こんな山間部にこのような巨大な都市を建設したこと事態に無理があったという印象をぬぐいきれない。フィリピンで涼しさを味わえる唯一の地域ということで人気を集め、観光のメッカとなり、さらにここに住むことがステータスともなって、ブームになったものだ。しかし、軽井沢のように単なる別荘地帯として留まっていれば、このような大きな問題ともならなかっただろう。

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  ちなみにバギオ市の人口は30万人、土日祝日は観光客の関係で50万人となり、さらにお祭りなどがあると100万人に膨れ上がると、市長が言っていた。しかし、どうみても100万人の人口をかかえられるような土地がない。だからありとあらゆる斜面に家がたっているのだ。

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   べンゲット州の州都ラ・トリニダッドに通じる道の途中に今回の台風で最大の被害を被った地域がある。道路の山側で起きた地滑りは道路を越えて、道路下の村を飲み込み、70人以上の死者を出したそうだ。いまでも斜面の上に立つ住宅は一触即発の状況だ。

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   しかし、これら地すべり被害は局所的で必ずしも大きな被害という印象はなかった。死者も数百人程度で、津波や台風水害に比べれば、さほどのものではない。それよりもバギオ市に通ずるケノン・ロードなどの道路が破壊され数十万人の市民への物資の供給ができないという、2次的災害の方が大きな影響を与えるのではないだろうか。

  ケノン・ロードの両側にはいたるところに地すべりの後が見えたが、2箇所で道路が完全に破壊され、応急処置が施されていた。しかし、ちょっとした大雨が降れば再び破壊されるのではないかと危惧され、本格的復旧が急がれる。

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  ケノン・ロードに沿った河川の本流では充分な高さの橋が作られているが、その支流は小さなカルバートがあるだけだ。その支流の上流で地すべりが起こり、大量に雨水と共に、このような巨岩が流されてきたのでは、そんなカルバートは何の役に立たない。道路もろとも流されてしまっているが、このようなカルバーとは数知れずあり、次はどこが破壊されるか見当がつかない。

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  ケノン・ロードを出るとそこは絵に書いたような扇状地が広がっている。河川の勾配がなくなり大量の土砂が堆積している。しかし、これら大量の土石流で、下流の橋の桁が沈下し、橋が破壊される寸前だった。この付近でも川の水位は23メートル上昇し、川幅いっぱいに大量の水が流れていたそうだ。

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    今回のバギオの被害調査の印象は、「本来このような大都市を収容できるような自然地形でないところに、無秩序に都市化が進んだことによる人災」ということだ。地球温暖化が進んで、予測できない大雨被害があちらこちらで起きている折、根本的に考え直さない限り、この人災はさらに増幅されるだろう。今回の台風で空中都市バギオの弱点が露呈された感がある。

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