退職者が死んでしまったら 2010年6月17日


どなたかが日本で亡くなった場合、ほとんどの場合、家族の方がいろいろ動いてことを運ぶ。しかしながら、独り身で滞在していることが多いフィリピンで は、誰か他人がことを運ばなければならないことも多々ある。その場合、多くのことが、家族の同意を必要とするから、なかなか難しい面がある。一方、例え家 族の方がフィリピンにやってきたとしても、なれない外国で色々ことを運ぶのは、言葉の問題もあいまって、大変難しい。

 最近、家族の方がやってきた場合と、家族の方が誰も来られなかったケースについて、退職者の危篤に至ってから、死後までのお世話をする機会があったので、必要な手順や問題点、その対処法などをまとめてみた。

1. 危篤になったら
  日本人が重病にかかるとフィリピンでももっとも高いとされるマカティ・メディカル・センターなどの一流病院に入院させられてしまう。その場合、治療費も含 めて毎日数万ペソの金がかかる。日本の健康保険は効くことは効くが、とりあえず立替払いをしなければならない。一方、当地の医療保険に入っていれば、 キャッシュレスのサービスもあるが、まだまだ普及していない。だから、まず入院させる前に財布の心配をしなければならない。ところがフィリピン人の多く は、日本人はお金持ちと思っているから、即座に一流病院に入れてしまう。あとから「あんな病院に入れたから、死んでしまった」などと家族から文句を言われ たくない、という思いもあるのだろう。

 そのため、入院となったら、本人とともに周囲が初めに考えなければならないことは、どこまでの治 療あるいは手術をするかだ。その退職者の資産状況により、行なうべき治療の限界を見定めておかなければならない。そうでないと面倒を見た周囲の人が入院治 療費をかぶらなければならなくなってしまうことさえある。例え、家族の方が責任をとるとしても思いがけない負担になる。

 フィリピンでは 病人が危篤となり助かる見込みがない場合、病院側としても入院費の取りっぱぐれがないよう救命治療を続けるかどうか、家族の判断を求めてくる。すなわち、 家族の同意のもとに救命治療を停止して「患者の本来の生命力に賭ける」という、延命治療の拒否というようなことが可能なのだ。実際問題、危篤になってか ら、酸素マスクをはずしたり、点滴を止めるのだから、99%は速やかに亡くなってしまうだろう。しかし、この辺の判断に時間をかけていると、残された家族 は肉親の死というショックの他に数百万円の請求書に再びショックを受けることになってしまう。もし家族がその場にいなければ、この同意は郵送やE-メール によることも可能だ。

2. 入院治療費の支払い
フィリピンでは入院費や治療費の取りっぱぐれ が頻発する。通常、入院費を支払わなければ退院させてもらえない。もし、患者が亡くなった場合、遺体を引き渡してくれないばかりか、死亡診断書も発行して もらえない。だから、速やかに支払いが出来るよう現金を準備しておかなければならない。

 例え、退職者がお金を持っていても、銀行に預け てあるのでは役に立たない。退職者が死んだら預金は凍結されてしまうから、危篤状態にある患者には申し訳ないが、なんとしてでも、通帳や銀行カードを借り て、お金を下ろしておかねばならない。サインすることも出来ない状況になっていたら、銀行に事情を話して、病院で立会いのもとに拇印を押してもらってお金 を下ろすことも可能だ。ATMカードなら暗証番号だけで下ろせるから簡単だが、数十万~数百万ペソのお金を下ろそうとする日数がかかって仕方がない。共同 名義となっている場合は、もう一方の名義人が預金を下ろせるので大変有利だ。しかし、一方が死亡した場合、預金は凍結され共同名義人だとしても引き出しが 出来なくなるので注意が必要だ。いずれにせよ、退職者が死んでしまってからでは遅いので早めに対処しておかなければならない。

3. 死亡診断書・死亡証明
  病院から死亡診断書を出してもらうとき、やはり立ち会った家族の署名が必要となる。病院としても単なる赤の他人に対して死亡診断書を発行するようなことは 出来ない。その場合、パスポートの提示と死亡した退職者との関係を申告する必要がある。家族がいない場合、それなりに立場のある人が、後見人 (Guardian)ということで受け付けてもらえるだろう。フィリピン人の介護人やメイドではだめだ。

 死亡診断書を市役所に届けて、 市役所が発行するもので、初めて公的な証明書となる。それをもって、日本大使館や日本の市役所で死亡届を提出して戸籍に反映することが出来る。この場合、 日本で届ける場合は死亡証明の翻訳が必要なので、日本大使館に届けたほうが簡単だ。また、埋葬や火葬を行なうにしても死亡証明が必要となる。相続手続きに はさらにNSO発行の死亡証明が必要とされるが、大使館発行の死亡証明(戸籍謄本に基づいて発行される)で代替が利くかどうかは銀行次第だ。なお、日本大 使館での届出は原則家族だが、同居人などでも届けることが出来る。

4. 葬式と埋葬
 通常火 葬として遺灰を日本へ持ち帰ることになるだろう。遺体の日本への搬送は数百万円の費用がかかるそうで、現実的ではない。フィリピンにも火葬場があるので、 その筋の業者に依頼すれば、葬式も含めて面倒を見てもらえる。業者は日本大使館でも紹介してもらえる。葬式も含めて費用は全部で5万ペソくらいからだ。た だし、フィリピンでは土葬が一般的だから、火葬には家族の同意書が必要だ。家族が立ち会わない場合、日本に書類を送付し署名してもらう手もある。その場 合、パスポートなどの本人証明の書類を同時に提出する必要がある。遺灰を日本に運ぶとき、大使館に持ち込んで封印してもらうと、空港でいらぬ詮索を避ける ことが出来る。なお、フィリピン人は火葬にかなり強い抵抗を持っているので、家族とも呼べる親しいフィリピン人がいたら、土葬ということも視野に入れてお くべきだ。 

5. 退職ビザのキャンセルと定期預金の引き出し
 退職ビザ取得のために預け入 れた定期預金は、PRAの引き出し許可証がないと退職者本人でも下ろせない。そのためにまず、ビザをキャンセルしなければならない。通常これには1ヶ月近 くかかるが、事情を話せば1週間くらいでも可能だろう。引き出し許可証の受取は本人あるいは本人の拇印と署名が必要で、PRAと銀行と連携をとって銀行か らの引き出し手続きに必要な書類も含めて病院で行なうことも可能だ。しかし、退職者が死んでしまったらどうしようもないので速やかに行なうことだ。そのた め、事前に委任状を作成しておいて、退職者の署名等を最小限にするよう、準備しておくことが有利となる。PRAや銀行の立会いもメトロマニラの病院に限ら れるだろう。

もし奥さんも退職ビザを持っていて定期預金が共同名義になっているとすると、PRAのルールではプリンシパル(申請者本 人)は奥さんに引き継がれることになっているが、銀行のルールでは遺産相続手続きを経ないと定期預金は奥さん個人のものにならないという、矛盾がある。こ れについても事前に対処しておいたほうが無難だ。

 退職者が亡くなってからビザのキャンセルをする場合は、誰か家族の一員が行なう。その 場合、パスポートの他に戸籍謄本の翻訳か戸籍謄本記載証明など、家族であることを証明する書類を大使館から取得してPRAに提出する。また、家族からの委 任状で他人が手続きを進めることも出来るが、日本で委任状を作成した場合、公証役場、法務局、外務省を経てフィリピン大使館で認証する必要があるので、 フィリピンで署名するのが簡単だ。代理人が定期預金の引き出し許可証も受け取ること出来るが、銀行での引き出しについてはその銀行のルールに従って気の遠 くなるような相続手続きが必要となる。これは預金が誰かとの共同名義になっていたとしても同様なことだ。

6. 遺言
  PRAの定期預金やその他の銀行預金を残したまま退職者が亡くなってしまった場合、その資産について遺言を残しておくことが肝要だ。その遺言が法律に則っ ている限り、それに基づいて遺産分割が行なわれ、相続人同士でもめることもなく、スムーズにことが運ぶ。ただし、税務署等に届けて必要な相続税の支払いを 行なうなどの手続きは必要だ。また、この遺言は事前にきちんと公証して法的に有効にしておかなければ、後からその有効性を裁判所に裁定してもらわなければ ならなくなる。遺言と後述する遺産分割協議書との関連、どこまで相続手続きを簡便にできるかについては、さらに私にとっての研究課題だ。

7. 遺産相続
  遺産相続の手順は下記となるが、奥さんや子供がいなくて相続人が多岐に渡る場合、大変な手間がかかる。ちなみに相続順位は、第1位:妻と子供、第2位:両 親、孫、第3位:兄弟、となっているが、フィリピンも同じだ。もし、正式な結婚によらない子供でも認知されていれば、すなわち戸籍に記載されていれば相続 権がある。フィリピンにおける相続の手順は下記で、大変面倒だ。PRAがらみの定期預金の場合は、下記に加えてPRA発行の引き出し許可証が必要となる。

遺産相続については法律や書類の準備が日比両国にまたがるためにどちらか一方の弁護士に頼んだとしてもなかなか埒があかず、遺族の負担は甚大なものになるので、遺言など退職者本人による事前の準備が肝要だ。

1. 遺産分割協議書(Extrajudicial Settlement)を作成し、法定相続人全員による署名し、公証する
2. 上記の新聞に掲載し公告し(一週毎に3)、異議の申し立てを募る
3. 税務署へ相続税を支払う(入院費や諸経費は控除されるが、基本的な税率は35)
4. 2年間の相続凍結を免除するための保証会社にボンドを積む
5. 相続者であることの証明(出生証明、婚姻証明、死亡証明等)の準備
6. 相続者の2通のIDの提出(パスポートと免許証等)の準備
7. 上記書類を銀行等に提出して遺産を引き出す、あるいは不動産等の所有権の移転登記を行なう

 

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