5月9日の統一選(大統領選)は、事前の支持率調査の通り、ドテルテ候補(現ダバオ市長)の圧倒的勝利に終わった。それから2週間、新聞(マニラ新聞)では、毎日、ドテルテ新大統領に対する期待の記事が掲載され、選挙前の批判、懸念の記事はほとんどない。巷の人々も、国民が民主的に選んだ大統領ということで、まずは期待の目で見守ろうといういう声が多く、国民そして政財界が新大統領を受け入れた格好だ。
高らかに勝利宣言をするドテルテ候補
一方、副大統領は現政権の信任を得たロブレド候補(現下院議員)が僅差でリードしているが、対立候補のマルコス候補(現上院議員)は選挙集計に不正が行われたとして、追求の構えを崩さず、泥仕合の様相を呈している。しかし、悪あがきといった見方が一般的だ。
その他着目すべきは、上院議員選挙ではボクシング界の英雄、パクヤオ候補(現下院議員)が12名の改選に対して第7位で当選を確定した。一方、ビナイ副大統領(今回の大統領選で敗北)の次女のアビー・ビナイがマカティ市長に当選したが、それを不服とするベニャ候補(現市長)を支持する市職員が選挙に不正が行われたとして職場を放棄するなどの混乱が生じている。さらにフィリピンで初めてとなるトランスジェンダー(オカマ)のジェラルディン・ロマンがルソン島バタアン州から立候補し下院議員に当選した。
以下は投票日以降のマニラ新聞の一面の見出しだ。
5月10日(火):新大統領にドテルテ氏ー比国民、変革に期待
5月11日(水):連邦制移行に意欲、会見へ制憲議会立ち上げも(ドテルテ市長)、会見で敗北宣言(ロハス、ポー両氏)ードテルテ市長を祝福
5月12日(木):円滑な交代を約束(アキノ大統領)、米中両国が期待感、マルコス氏が不正疑惑指摘ー中央選管は反発
5月13日(金):治安向上と発展で支持拡大ー真の分権実現に夢託す(ダバオ市民が語るドテルテ氏)、ドテルテ氏当確を歓迎ー専従民族と欧州連合が声明
5月14日(土):大統領選を振り返って、異端の指導者を押し上げた30年の怠慢(解説)
5月15日(日):休刊日
5月16日(月):犯罪者は命を失う、撲滅に決意を再表明(ドテルテ氏)、選挙プログラム修正に物議(マルコス副大統領候補)
5月17日(火):死刑復活を表明(ドテルテ市長)、ドテルテ市長と会談(日本大使)-事実上の当選を祝意、悪徳警官をあぶり出しー国家警察が内部捜査開始ードテルテ氏発言を受け
5月18日(水):ドテルテ氏の豪腕に期待(日本商工会議所藤井副会頭)
5月19日(木):差別乗り越え下院で当選ー比初のトランスジェンダー議員、オバマ米大統領が祝意表明ードテルテ氏と電話会談
5月20日(金):上院選当選者を発表
5月21日(土):犯人射殺の警官に報奨金ーセブ市長当確のオスメーニャ氏(ドテルテ氏の支持者)、ダバオ処刑団の捜査行き詰る(司法長官)
5月22日(日):ドテルテ追放は弾劾裁判でークーデター計画を否定(トリリャネス上院議員)
ドテルテ新大統領の公約は治安、汚職、麻薬そして貧困の撲滅と非常に理解しやすい。貧困撲滅の具体的な政策は見えないが、処刑団を率いて(と本人が明言している)、ダバオをフィリピン有数な安全な街にしたという実績は評価され、ダバオ市民の圧倒的支持を得ている。一方、多くの警察官が麻薬取引に関与しているといわれる国家警察では、すでにそのあぶりだしを始めており、ドテルテ氏が大統領に就任する前に免職、逮捕しようとしている。賄賂の温床といわれる、税務署、税関、入管などでもドテルテ氏の就任に先立ち襟を正そうという動きがあり、早くもドテルテ効果が出ているようだ。