不法就労の落とし穴 2014年7月19日


最近、ビジネスチャンスをうかがってフィリピンに滞在される若い方が増えてきた。不動産取引、英会話学校、コールセンター、日本語学校、人材派遣など、日本の会社あるいは個人との取引を仲介したり、サービスを提供する業種だ。ビジネスに当たって、会社を設立したり、個人的に活動したり、その形態は様々だ。

フィリピンでは、外国人の活動が制限され、ほとんどのビジネスでは、会社の60%の株式(マジョリティ)がフィリピン人に保有されていなければならない(土地の保有もこのようなフィリピンマジョリティの会社に限られる)。ちなみに小売業/レストランの場合は100%がフィリピン資本でなければならず、したがってすべからくフィリピン人の名前を借りて営業をしなければならない。当然のことながら、両者も代表者(社長)等は、フィリピン人となり、このことが多くのトラブルを生む原因になっている。

そうなると、日本人は、会社の代表として、あるいは、小売営業などでは経営者として表に出ることができない。会社組織の場合は、少なくとも役員として経営者の一角と占めることはできるが、小売業では、被雇用者として参画するのがせいぜいだ。そんな法的制限により、日本人が、裏でビジネスを切り盛りするという違法まがいの状況が発生してしまう。

また、一方、会社あるいは個人として政府に登録しないとビジネス行為を行うこと禁止されているので、不動産仲介などにおいて、個人的な活動でに利潤を得ることはできない(フィリピン人の間では、かなり一般的に行われているようではあるが)。ただし、個人の所有するコンドミニアムなどを賃貸する場合は、特に登録しなくても大目に見られているようだ。ただし、最悪、賃貸料にVAT(付加価値税)を課せられる可能性はある。

フィリピンで仕事をする場合、6ヶ月以内であれば、入管からSpecail Work Permit(SWP、特別労働許可証)を取って就労することができる(3ヶ月有効、一回に限り延長可能)。それを超える場合は、労働雇用省(DOLE)からAEP(Alien Employment Permit 外国人就労許可証)を取得する必要がある。さらに、AEPを取得して9gビザの申請中はProvational Work Permit(PWP 暫定就労許可証)が発行されるが、3ヶ月有効で延長は不可)。これは、フィリピンの会社に雇用される場合であるが、会社の経営に参画する場合も原則同じことだ。

これらは、フィリピンに滞在するためのビザ(査証)とは別物で、SWPの場合は、9a(入国ビザ/ツーリストビザ)でOKだが、AEPを取得して長期に就労する場合は、9g(Pre-Arranged Employee Visa 就労ビザ)などの長期ビザの取得が前提だ。ただし、この場合のAEP-9gは、フィリピン人では代替できない高度な技術、日本人でなければできない仕事(日本語の教師、和食の板前など)に限られ、誰でも取得できるわけではない。要は、フィリピン人の仕事を奪うような単純労働者の受け入れを防ごうという狙いだ。

あらかじめ退職ビザ(SRRV)を持っている場合は、このAEPさえ取得すれば就労することも可能だ。この場合は、比較的簡単で、特に特殊な技術、技量を持っていなくても取得できる(ただしビザの取得が35歳以上という制限がネックになる)。

また、AEPの前提となる雇用会社と対になっている9gは、会社を替わるとAEPだけでなく9gビザの取り直しも必要となるので大変面倒だ。一方、退職ビザは、AEPが前提となっているわけではないので、そのまま継続されて面倒がない。そのため。50歳未満の現役のかたもフィリピンで就労ないしビジネスをするために、この退職ビザを取る方も多い。ちなみに移民ビザに分類されるクオータビザおよび13a(婚姻ビザ)の場合は、このAEPがなくても就労/ビジネスができる。

上記の通り、SWPあるいはAEPがフィリピンで就労する上での前提となるのだが、就労という定義が必ずしも明確ではない。フィリピンのいずれかの会社に雇用されて報酬を得る、というのがその定義だが、下記の場合など、AEPが必要であるのかどうか判断が難しい。

1.親会社から派遣されて、フィリピン子会社の現地社員の技術指導を行うために駐在している。会社同士の契約で、トレーナーの派遣は、親会社の無償提供となっており、子会社からトレーナーには給与等は支払われない。

2.親会社から派遣されて、ダミーのフィリピン人社長に成り代わって会社の経営を行っている。社長等のポジションには法律上つけないので、役員の肩書きだけで、日本とフィリピンを行ったりきたりしながら、会社の経営を行っている。もちろん、子会社から報酬は受け取っていない。

3.日本人を対象に営業活動を行って、不動産等のの購入客をデベロッパーないし所有者に紹介して、口銭をもらっている。ただし、口銭は日本の会社/個人に支払われ、個人的にフィリピンでの金銭の授受はない。ただし、営業はインターネットでやっているので、活動の中心はフィリピンだ。

4.研修という名目で、英語学校などの学生がコールセンターなどの実務に従事しているが、報酬は受け取っていない。

従来、就労か否かの境界は、フィリピンでの報酬の存在だった。報酬さえなければ、問題なかろうと考えていたが、直接報酬は支払われていないとしても、実質的に就労しているのであれば、話は微妙だ。仮に報酬は外国で支払われているとしても、その報酬の根拠がフィリピンでの就労である場合、報酬はないということにはならない。しかし、外国で報酬が支払われているという証拠をつかむことは、入管にとっては至難の業だろう。

また、さらに、会社においてマネージャーなどの地位を持たないこと、そして、その地位がゆえの会社書類には署名しないことだ。それらの存在は、会社に所属し、就労をしているという証拠になり、言い訳がたたない。要は証拠を残さないことが肝心だった。

しかし、最近、ややこしい状況が発生している。先日、数百人規模の不法就労の中国人建設労働者が摘発され、入管は、不法就労の取締りを強化すると宣言した。そして、密告を奨励し、報奨金まで支払っているらしい。中国人や韓国人は、フィリピンの法律などは糞食らえで、順法精神などは、ほとんだ持ち合わせていないからやりたい放題だ。だから、フィリピン人社員に密告を奨励して、実態をつかもうという作戦だ。

最近、セブで英語学校の日本人生徒60人が、コールセンターで就労していて、60人が拘束された事件が発生したが、これも内部の密告によるものだった。この事件では、学校は、無料で英会話学校の授業が受けられるという謳い文句で生徒募集し、その代わりにコールセンターで研修(と見せかけた業務)を実行することを義務付けた。さらに生徒はPWPを持っていたが、PWPはAEPを前提としているにも関わらずこのAEPを持っていなかったために入管の違法な関与も取りざたされている。

そうなると幾ら見せかけを繕っても、就労しているかどうかは、そこで働いている社員にとっては一目瞭然で、密告されたらひとたまりもない。証拠書類も知らぬ間にかき集めて、報奨金目当てに、入管に駆け込むだろう。普通のフィリピン人は、こんな密告はしないが、何らかの原因で日本人経営者等に恨みを抱いたり、首になったりしたら、それがたとえ逆恨みだとしても、入管への密告という事態になりかねない。

入管に密告されると、まずは、入管から、通告が来て、不法就労の密告するに対する言い訳をするよう求められる。決して就労ではないと言い訳をするわけだが、内部密告となると、敵も証拠を押さえていて、なかなか容易ではない。そのときから、この辺に詳しい弁護士を雇って対処すべきで、後になればなるほど事態はややこしくなる。

無事に無罪となれば、めでたしめでたしだが、有罪となると、収監、保釈金を積んで出所し、国外退去とまさに罪人扱いだ。そしてBlack Listに載せられて、その後のフィリピン入国もままならない。こんなことがおきないように、決してフィリピン人社員には恨みは買わないこと、そし、決して弱みは持たないこと、というのがフィリピンでビジネスをする上での鉄則だ。

就労とみなされる恐れがある場合、あるいは、何らかの報酬を受け取る場合、面倒がらずSWPあるいはAEPの取得を行うとが転ばぬ先の杖というものだ。

 

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