最近、マラテ、エルミタなどの下町では扇で顔を半分隠した浮世絵風の女性の看板がやたらと目に付く。これがホテル/モーテル・チェーンSOGOのシンボルマークだ。名前の由来と日本風のロゴとの関係は定かではないが、日本人を夫に持つフィリピン人の経営らしい。フィリピンの若者に評判のホテル/モーテルということで5~6年前に始めて耳にしたが、それまでは欠けたリンゴのロゴのアニトや人差し指を口に当てた意味ありげのロゴのビクトリア・コートがモーテル市場を席巻していたのだ。 この二つのモーテルチェーンのオーナーはMr. Kingといい、メトロマニラのいたるところにこの看板を掲げるという羽振りのよさで、当時モーテル王として君臨していた。私は1990~1994年の間、マカティのパソンタモ通りのKing’s Courtというビルに事務所を借りていたが、それがこのモーテル王Mr.Kingの持ち物だったのだ。ちょっと交渉事があって彼と話をしたことがあるが、物腰が柔らかくて物分りの良い中華系フィリピン人だった。
そのKingさんがしばらく前にすべてのモーテルを閉鎖してしまったのだ。理由は「モーテルの存在により世の紳士淑女に婚姻外の関係を結ぶ場を提供し、数知れぬ家族を破壊に追いやったのは偏に自分の責任であり、神を冒涜するものだった」という極めて敬虔なクリスチャンの発想によるものだった。確かにシングルマザーなどの増加もこのモーテルの存在に起因しているのかもしれない。しかしKingさんの本音は違うのではないか。だだっ広くて趣味の悪い内装が時代遅れでSOGO等の新興勢力の台頭により採算が合わなくなり、事業閉鎖に追いやられてしまったが、労働争議の発生を抑えるためにもっともらしい理由をつけたものだろう。
それにつけてもSOGOの躍進はすさまじく、第1号店のマラテ店、エドサのエドコンの近くに2店舗、さらにマンダルヨンに1店舗と、あの赤と黄色の派手派手な巨大なビルがいやが上にもその存在感を誇示している。さらに最近はパサイ、マラテ地区を脱出してクバオ、ノースエドサ、アラバンなどメトロマニラ全域に展開している。そしてさらにセブなどにも出店し、パンパンガにも新店舗がオープンしたという、まさにSMデパートチェーンのように全国展開を果たさんが勢いだ。
SOGOの部屋は小ぶりだが使い勝手のよい近代的なレイアウトで、安さと清潔さを売り物にしている。一昔前のモーテルのように変に内装を凝ることもなくシンプルなところが人気の秘密のようだ。モーテルというよりホテルのつくりで、部屋ごとに駐車場をつけるなどという無駄なこともしていない。そもそも車を持っているカップルなどはこの国では少数派だし、車のまま中に入り人知れずことをなすなどという発想はすでに時代遅れで、カップルは堂々と腕を組んでホテルないしモーテルに入るというのが今風なのだろう。さらに空室の多い平日の夜は525ペソで一泊(12時間)できるなど、バックパッカー用の安宿のないフィリピンでは旅行者にとってもありがたい存在だ。なお、SOGOはホテルを併設しており、通常のビジネスホテルとしても機能している。