フィリピンのビリオンネヤー 2017年6月13日


マニラ新聞が発行している「よるナビ」5月号に興味深い記事が載っていた。ほとんどがマニラのナイトスポットの宣伝と紹介なのだが、さすがマニラ新聞が編集するだけあって、読み物も興味深いものが多い。米経済誌フォーブスによる2017年度版、世界の資産10億ドル(One Billion 約1100億円)以上の長者番付だが、世界で2043人、フィリピンでは14人が番付に入っている。フィリピン人トップはSMデパートを率いるヘンリー・シー(94歳)で、資産は127億ドルで一兆円を優に越え、世界ランクは94位。フィリピン人では唯一100位以内に入った。

第1位.ヘンリー・シー 94位、127億ドル(一兆4千億円)

一介の靴の修理屋から身を起こし、一代にして、一兆円をこえる資産を手にした中華系フィリピン人。フィリピン全土に巨大なSMモールを展開し、小売業界の王様だ。最近ではコンドミニアム・ブームに便乗し、傘下のSMDCが巨大なコンドミニアムを、これまた、マニラ中に建設した。さらに、バンコ・デ・オロとエクイッタブルPCIの二つの傘下の銀行を合併させて、メトロバンクを抜いてフィリピン最大の銀行を誕生させた。街にはやたらとBDOの看板が建ち並び、支店数は1128とメトロバンクの959を凌駕する。さらに最近では中国本土にも再上陸して、デパートチェーンを展開しているようだ。さらにマカオのカジノ王、スタンレー・ホーと提携して、シティ・オブ・ドリームスを開業している。

巨大モールの総仕上げともいえるマニラ湾のMall of Asia、世界で3番目、中国を除くと、世界一という巨大なモールだ

巨大という文字が好きなのか、SMDCが開発するコンドミニアムは軽く1000ユニットを越える、マカティのJAZZ

全国に1000軒を越える支店網を誇る

マニラ湾の埋立地に開発が進んでいるエンターティメント・シティに出現した巨大カジノシティ・オブ・ドリームス

第2位. ジョン・ゴコンウエイ 250位 58億ドル(6400億円)

第一位のヘンリー・シーと同じく中華系フィリピン人、全国に巨大なロビンソン・モールを展開し、コンドミニアム開発も手がけるが、SMの後塵を拝している。しかし、格安航空のセブパシフィックはナショナル・フラッグであるフィリピン航空をしのぐ勢いで、NAIA(マニラ空港)のターミナル3をほぼ独占的に使用している。日本の主な空港にも乗り入れていて、日本でもおなじみになっている。

NAIAターミナル3の前にはセブパシフィックの機体が並んでいる

第3位. ルシオ・タン 501位 37億ドル(4070億円)

タバコ王、あるいは脱税王とも呼ばれ、評判は今一の感がある。ナショナル・フラッグのフィリピン航空を率いるが、従業員のストライキなどで世間をにぎわしている間にゴコンウエイのセブパシフィックに第一位の座を奪われた。最近、傘下のPNB銀行とアライド銀行を合併させて、商業銀行としてはフィリピン第4位の銀行を誕生させた。

フィリピン航空はレガスピ空港にも乗り入れていてお世話になることもしばしばだ

ターミナル2はフィリピン航空専用だ

第4位. ジョージ・ティ 544位 35億ドル(3850億円)

かつて第一位を誇っていたメトロバンクを率いている銀行家。デベロッパー大手の一角のフェデラルランドも傘下においている。

街の角々にあるのではないかというほどメトロバンクの支店は数が多い

パソンタモ通り沿いにはオリエンタルガーデンなど3棟のコンドミニアムがフェデラルランドの手によって建設されている

第5位. トニー・タン 564位 34億ドル(3740億円)

天下の外食チェーン、ジョルビー、チョーキンなどを傘下に置くファストフードの王。不動産にも意欲を示し、シティ・モールを全国に展開しようとしている。数千万円という高額のフランチャイズ料を課して、儲かるのは胴元だけのようだ。

ジョルビーと言えば泣く子も黙る、子供達の憧れのハンバーガーチェーン店、世界でもマクドナルドが勝てないのはフィリピンだけだ

第5位. エンリケ・ラソン 564位 34億ドル(3740億円)

海運王、庶民とは関係のないビジネスなのであまり知られていない。

第7位. デイビッド・コンスーヒ 630位 31億ドル(3410億円)

建設業界の雄・DMCIを率いる。1990年代のマカティ市の高層化に際して鉄筋コンクリート製の高層建築を手がけ、業界一位の座を占めた。最近はコンドミニアムブームにのり、マニラ郊外各地に比較的安価な大型のコンドミニアムプロジェクトを立ち上げている。

リゾート風の大型コンドミニアムビリッジは比較的安価な大型ユニットで人気がある

第8位. アンドリュー・タン 814位 25億ドル(2750億円)

アヤラ・ランドに次ぐ業界第2位のデベロッパー、メガワールドを傘下におき、ターミナル3の前、元海軍基地、ビラモールにニューポート・シティなど、街ごと開発するという手法で業界の雄として君臨している。

先日、襲撃、放火事件を引き起こしたリゾート・ワールド、そして周辺は無数のコンドミニアムが建設されている

第9位. ロバート・ユユイウト 1376位 15億ドル(1650億円)

保険事業を展開し、プルーデンシャル保険を率いる。

第9位. マニエル・ビラル 1376位 15億ドル(1650億円)

不動産事業会社ビスタ・ランドを率い、低価格住宅で有名なキャメリア・ホームズを傘下におく。

第11位. ラモン・アン 1468位 14億ドル(1540億円)

食品業界の巨人、サンミゲルビールの社長

第12位. エオドワルド・コファンコ 1678位 12億ドル(1320億円)

サンミゲルビールの会長、前大統領 ノイノイ・アキノ、元大統領 コーリー・アキノの実家でもある名門ファミリー、政財界に大きな影響力を持つ

第13位. ロバート・オンピン 1795位 11億ドル(1210億円)

中堅デベロッパー、アルファランド会長

アルファランドが手がけるマカティ・プレイス

第14位. エドガー・シア 1940位 10億ドル(1100億円)

最近成長が著しいファストフードチェーン、イナサールの創始者。チキン・バーベキューでこれだけの資産をため込むことが出来るなんて奇跡だ。

成長著しいINASALもあきられて少々かげりが見え始めた感がある

 ここまで書いて来て、フィリピンNO.1の名門、老舗スペイン系財閥の総帥、ゾベルデ・アヤラの名前が出てこないことに少々首を傾げたくなる。デベロッパーのNO.1アヤラ・ランドはアヤラ・ブランドのほかにもアルベオ、アビダなどのブランドで多くのコンドの開発に取り組んでおり、アヤラ・モールもSMほどではないにせよ、かなりの数のモールが各地で営業されている。さらに、フィリピンNO.3の銀行、BPI(Bank of the Philippine Island)も健在だ。かつては、マカティ市そのものがアヤラの開発であり、中心にはグリーンベルトやグロリエッタなどの商業施設が、いまだに再開発中で、さすがアヤラといえるセンスのある都市開発をてがけている。

アヤラが開発したマカティ市はもはやフィリピンの中心だ。中央の3棟のコンドは最高級コンドとして有名なザ・レジデンス・グリーンベルト

マニラの南、ラグナのサンタロサのモールはマニラッ子の買い物のメッカだ

ビリオンネヤーは名前からしてもほとんどが中華系の新興財閥(タイパン)と思えるが、アヤラなどの名門財閥は、資産をたくみに分配して、長者番付には顔を出さないようにしているだろう。しかしながら、その資産は新興中華系財閥No.1のヘンリー・シーでさえも及ばず、さらに政財界に隠然とした影響力を持っているに違いない。

 

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