トヨタの車は何故売れる 2017年5月14日


マニラ首都圏における車の増加は顕著なものがあり、いくら道路を作っても、カラー・コーディング(プレートナンバーの末尾の数字により首都圏では週に一度走ることが出来ない制度)で規制しても、万年渋滞は留まるところを知らない。最近はオートバイや自転車まで加わって、毎日、路上バトルが繰り広げられている。だから、マニラの道路を横断できるようになったらフィリピン生活も一人前になったと認められるくらいだ。ちなみに、路上の主は車であって、歩行者は車の隙を狙って、横断するしかなくて、歩行者優先などという言葉はフィリピンでは通用しない。

そんな状況でも車を売りまくっているのがトヨタだ。5月3日付のマニラ新聞によると昨年の新車総販売台数は40万台を越え、中国の2400万台には遠く及ばないものの一億足らずの人口からすれば、かなりの台数だ。そのうち、40%の16万台弱はトヨタ車で占められ、しかも、その半分以上をマニラ首都圏売りさばいている。第2位は三菱(15.2%)、3位が韓国の現代自動車(8.3%)、4位がフォード(8.3%)、5位がいすゞ(6.8%)、6位がホンダ(5.7%)、7位が日産で(4.2%)、以下、韓国のKIA、スズキ、マツダ、スバルなどが続く。雨季になると道路冠水が頻発するフィリピンでは車高のの高いSUVが人気なだけに、いすゞが気を吐いている。一方、日産とホンダが6位と7位ではちょっとふがいない。

トヨタ(トヨタ・モーターズ・フィリピン)の2016年度の売り上げは1558億ペソ(約3500億円)で営業利益が157億ペソ(約360億円)と、日本でも悠々一部上場会社として認められる実績だ。さらに従業員は2600人に達するというフィリピンでは超優良マンモス企業だ。

車種別に見ると、小型セダンのビオスが36千台で第一位(この一位はトヨタ車に限ったものではなくて、フィリピン全体としての売れ行きの一位だ)。マニラを走っているタクシーはほとんどがビオスではないかというくらい、やたら走っており、しかも、現地生産されてるために、国民車ともいわれている。最近は、スタイルが良くなったために自家用車としてもかなり売れているようだ。かつてはトヨタ・カローラあるいは日産・セントラ(日本名 サニー)が小型車の代名詞だったが、現在はビオスが圧倒している。価格は、タクシー用のMT車が61万ペソ(140万円)からATの上位グレードが92万ペソ(210万円)程度と手ごろ(?)だが、フィリピンでは車は日本よりも高いのだ。

タクシーの100%はビオスと感じるくらい多いが、他には韓国の現代あるいはKIAなどが若干走っている

 第2位が、ちょっと以外だが、フォーチュナーで、日本では発売されていない本格的SUVだ。これくらいの車に乗っているとステータスを感じることが出来る。ちなみに値段はミドルクラスのAT車で178万ペソ(410万円)、四駆となると217万ペソ(500万円)もする。こんな車が売れ筋なんて、フィリピン庶民の懐はどうなっているんだろうと首を傾げたくなる。

フォーチュナーは高級SUVで三菱モンテーロなどと人気を二分している

 第3位がハイエースバン。UVサービスと呼ばれる中距離コミューターの主役で、10~15人の定員で朝夕の通勤客をマニラ郊外から運ぶ庶民の重要な足となっている。マカティのコマーシャルエリアにある駐車場(パーク・スクエア)には夕方の通勤時間に出動するUVサービスのバンが大量に並んでいる。また、先日、ビコール地方に車で旅した際には、国道にはやたらとハイエースが走っていた。当方もハイエースで旅行したのだが、長距離旅行の定番はハイエースということのようだ。UVサービスのほかにも旅行社など、多人数の客を乗せる車の定番だ。ハイエースは、一番安いもので130万ペソ(300万円)、中程度のAT車で190万ペソ(435万円)と決して安いものではないのだが。

ビコールの旅は500km、12時間近い旅だったが、ゆったりしたハイエースなのであまり疲れなかった

 UVサービスとはUtility Vehicle Serviceの略で、かつてはFXと呼ばれていた。それは、AUV(Asian Utility Vehicle)と呼ばれたトヨタのタマラオ(野生の水牛という意味)FXという車が使われていたためだが、そのタマラオFXは大家族一同を乗せることができる大衆車として1990~2000年代一世を風靡していた。そして、現在、その役割をハイエースが担っているというわけだ。同型車として、日産のアーバンがかつては市場を二分していたが、現在はハイエースに水を開けられている。タマラオFXはすでに生産を中止しているが、AUVとしては、いすゞ・クロスウインド、三菱・アドベンチャーなどが100万ペソ以下で手に入れることができて主に商用車として根強い人気を保っている。

マカティ、パークスクエアにはハイエースなどのUVサービスの車が並んで庶民の退勤時間を待っている

かつてAUV市場を席巻したタマラオFXの旧型、庶民の憧れだった

 第4位がスモールセダンのWIGO。車が贅沢品であるフィリピンでは、かつては小さな車はステータスにならないと敬遠される傾向があった。大枚はたいて車を買うなら、人に自慢できる車にしたいというのがフィリピーノ気質だ。しかし、最近、庶民も車を買えるようになったせいか、自分の懐と相談して実用的な選択をするようになったようだ。私の息子のフィアンセは、子供ができたら、WIGOを買って自分で運転して子供とでかけるという夢を持っている。息子はイノーバ(後出)の中古を持っているのだが、彼女は運転が易しそうなWIGOを買うと心に決めているそうだ。その話を聞いて、通りを眺めてみると、やたらとWIGOが走っている。小型車としてはかつてはホンダ・ジャズ(日本名フィット)が多かったが、最近はWIGOに座を譲っているようだ。

気がついてみると女性ドライバーの定番になっているWIGO、前から見ても特徴がないので私には区別がつかない

 第5位がイノーバ。2000年代後半、タマラオFXが姿を消すころに発売されたのがイノーバだ。3列シートで、車高もAUV/SUVに近くて、雨季恒例の道路冠水にも対応できる。FXの後継者ともみなされて、当時、爆発的に売れた。まさに実用一点張りの車だが、当時は売れ行き一番だったと推定される。昨年、息子が2010年型のMT車を40万ペソで購入したが中古価格もあまり落ちないようだ。最近、モデルチェンジをしたが、価格はミドルクラスで124万ペソ(285万円)と、そこそこの価格で、商用車としての役割はハイエースやアバンサ(後出)に譲っているようだ。

実用車として定番のイノーバ、平凡なスタイルこそが売りだ

前を走る3台の車がすべてがイノーバというほど街にあふれている(右の前の車は新型)

 第6位がアバンサ。小型ミニバンで、かつてはタクシーに多用されていたが、最近モデルチェンジをして形がよくなり、3列シートの使い勝手もよく、自家用車と使われることが多くなった。タマラオFXの後継車ともいえ、これから販売が伸びるだろう。ちなみに価格は、商業用が69万ペソ(160万円)、ミドルクラスで82万ペソ(190万円)でビオスと価格帯が似たり寄ったりだ。

かつての大衆車の雄、タマラオFXの後継といえるアバンサは庶民の足として急増している

 トヨタが首位から第6位まで独占しているが、第7位が三菱ミラージュ(小型セダン)、8位がフォード・エベレスト(SUV)、9位がトヨタ・ハイラックス(ピックアップ・トラック)、10位が現代アクセント(小型セダン)と、トップ10に日本車が8台、さらにそのうち7台がトヨタ、すべてのジャンルでトヨタの車がNO.1をとるというまさにトヨタ一人勝ちの様相だ。その他、カムリ、カローラなどのセダンもそこそこ売れている。

ちなみに第9位のハイラックスは、日本ではあまり見かけないピックアップだが、4ドアで2列のシートがあって、SUVの後ろが荷台になっているものだ。MT車は95万ペソ(217万円)、ミドルクラスATで131万ペソ(300万円)、四駆だと171万ペソ(390万円)と決して単なる商業車ではない。ピックアップはアメリカでは人気があり、日産、三菱、いすゞなども2列シートのピックアップを販売していて、フィリピンでもそこそこの需要があるようだ。

4ドアで2列シート、後ろはトラックの荷台となっているピックアップ、日本では見かけない車種だが海外ではかなりの需要がある、写真の車はFORDのRANGER

トヨタのピックアップ、ハイラックス、本場アメリカのピックアップには重厚感で一歩譲るようだ

何故、トヨタがそれほど強いのか。これはフィリピンに限ったことではないだろうが、タクシー(ビオスとアバンサ)、UVサービス(ハイエース)などの商用車で圧倒的な支持を得ているということが決めてだ。タクシー等は30万km以上走るのが当たり前だが、そんな酷使に耐えることが出来るのがトヨタだけなのだろう。かつてカローラの中古を乗っていた友人が、トヨタの車が、これほどまでに頑丈とは思わなかったとか、フォーチュナーの中古に乗っていた人も、使用中、まったく故障がなかったと感心していた。丈夫で長持ち、高く売れる、などが人気の秘密なのだろう。

さらにラグジュアリー・カーのジャンルでもトヨタは負けていない。レクサスでベンツやBMWに対向する一方、SUVの最高峰、ランド・クルーザーやバンの最高峰、アルファードが当たり前のように街を走っている。ちなみにランドクルーザーが450万ペソ(1000万円)、アルファードが333万ペソ(760万円)もするのにだ。昨年、我が家にもトヨタ車がやってきた。ちょっとレトロ調のFJクルーザー、4WDの本格的SUV、4L-V6エンジンで186万ペソ(430万円)はフォーチュナーなどと比べて割安だ。しかし、それでもこんな高い車の資金をどうやって工面したのか、謎だ。

VIPを載せる高級セダンとして活躍するアルファード

ビナイ前副大統領の一行は、黒塗りのランクル(プレートNO.は”2”)を連ねて街を疾走していた。ランクルは富と力の代名詞でもある

我が家のステータス・シンボルのFJクルーザー、本格的SUVの割には安め(というかさほど高くない)

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