毎週土曜、恒例となっているサイカでのKIANとのランチで、料理を待っているとき、KIANが突如として、「ダダはガールフレンドがいるのか」とただならぬ発言をした。発言の根拠は、私が、その時、KIANを無視して携帯のテキスト(携帯メール)に集中していたためだった。私が発信していた相手は客だが、KIANにしてみればテキスト=ガールフレンドと思っているのだ。
その根拠は、以前、しばらく我が家に居候していたママ・ジェーンのお兄さん、アランがテキストしているのを見て、KIANが「誰にテキストを送っているのか」と聞いたら、アランおじさんは正直に「ガールフレンド」と答えた。そういえばボボイおじさんも携帯を一時も離さず、常にテキストにいそしんでいる。彼らにしてみれば、他にやることもないから、ガールフレンドと一緒にいないときは、ほとんど一日中、テキストで会話しているようだ。ちなみにアンリ・・・・と称して、携帯電話会社各社は同じ携帯電話同士であれば、一日十ペソのロードで無制限の(Unlimited=アンリ)テキスト、25ペソなら無制限の会話もできるサービスを提供している(スマートの場合)。だから、一日中、テキストにいそしんでいられるのだ。
コンドでは、次々と赤ちゃんが誕生して、KIANはもはやお兄さんだ。この双子は男と女で、一卵性双生児ではない。しかし、瓜二つだ。
そういえば、ママ・ジェーンもほとんどの時間を携帯とにらめっこをしている。彼女はI フォンを利用しているので、テキストばかりではなくて、E-メール、Face Bookやさらには新聞などを読むのにも利用している(ちなみに事務所兼住居の我が家には複数のパソコンでインターネットを利用できるようにWifi環境を整えてある)。もちろん、友人あるいはパパ・カーネルとのテキストもあるが、私にも、時に大量のテキストを送ってくる。たとえ、二人とも家にいる時でさえも、2階と1階でテキストの交換をしているくらいだ。
私にガールフレンドがいるという話は、KIANからジェーンにも伝わっていた。「KIANが、お腹がすいているのに、ダダはガールフレンドにテキストを送るのに夢中だった。」と、報告したそうだ。さらに、パパ・カーネルには、「マミーは携帯とにらめっこばかりをしていて、ちっとも自分をかまってくれない。」と小言を言ったそうだ。ちなみに、17歳のキムは携帯の所有やFace Bookの利用を禁止されている。それはもちろん、いい寄る虫から彼女を守るための親の算段だ。
私の部屋でテレビを楽しむ子供たち。私の部屋では、小言はないので、子供たちはのびのびと時間をすごすことができる。
フィリピーノがテキストで会話することと言えば、「How are you, Dd you finish your lunch, What are you doing, I miss you, etc 」などたわいもないものなのだが、ボボイと出かけると、10分おきくらいにボボイの携帯にテキストが入る。もちろん運転中は携帯をつかうことを禁止しているが、私を待っている間、自由に携帯が使えるはずなのに、なぜ、運転中にまで絶え間なくテキストが入るのか不思議でならない。こんな調子では、相手も仕事をしてるとは思えない。「私は、こういうくだらないテキストは嫌いで、そんなものが入ると返事をしない」と、ヤヤに話すと「だからガールフレンドができないのだ」と諭された。
話は変わるが、最近、ママ・ジェーンのKIANへのしつけが度を越えている。いわゆる箸の上げ下げにまで口を出すといった感じで、その指示も声を荒げたり、子供心に 針を突き刺すような調子で責める。挙句の果ては、「ママの言うことが聞けないの」、「ママを愛していないの」といった、日本でもおなじみのお決まりの文句だ。
かいがいしくKIANの爪を切ってやって面倒を見るキム。右の写真は大好きな麺にヤヤがしょうゆをかけてしまったのに怒って泣きわめくKIAN。
最近読んだ本で、カウン セリングをしていた牧師が、日本の最近の社会現象(虐待、いじめ、登校拒否、ひきこもり、リストカットなど)が病んだ子供/若者の心に原因があると語っていた。そ れが、親の過剰な干渉、期待、ストレス(子供を、自分のストレスのはけ口にする現象)にあり、子供たちは、親の叱責は自分の責任であり、親の期待に答えようと自分を責め、果ては自分を見失ってしまい、 上記の社会現象を生じていると説いている。
家族制度がまだまだ生きているフィリピンでは、まだまだ、社会問題にはなっていないもの、まさに目の前でママ・ジェーンのやっていることが、まさにそれだ。そのことを、ジェーンに話してみても、聞く耳を持たない。それが、自分の母親からも受けた教育で、それが正しいと信じ込んでいるからだ。この辺の、事情は日本と全く同じようだ。
囲碁ならず、碁石で遊ぶKIAN。そして姉のキムの足を逆えび固めで攻めるKIAN。
こんなことでは、せっかくのびのびと育ってきたKIANが、親や人目を気にするだけで、自分で判断して行動ができない、下らぬでくの棒に育ってしまうと、カーネルの目の前でジェーンを諭した。ジェーンは耳が痛いのか、ほとんど聞こえぬ振りをしていたが、とりあえずは、十分と話をやめた。
KIANは、夜、いつも私の部屋(3階)で他の子供たちと時間を過ごす。夜も遅くなったので、ジェーンが「下へ降りて来い」と、2階から声をかけた。ママ・ジェーンの命令は絶対だから、キムも双子もあわててKIANを2階に戻そうとする。KIANは私に背負われて階段を下りるのが好きだから、私の後ろに回っておんぶを催促する。2階のママの部屋に入ってもKIANは私の手をつかんで離そうとしない。パパ・カーネルもいるので、私は遠慮して部屋から出ようとすると、KIANは泣き出してしまった。ママ・ジェーンは、そんなにダダがよければ、3階に行きなさいと、言うので、再び私の部屋に行ったが、ママ・ジェーンが怖いKIANはやっぱり2階に戻ると言って、私に背負われて2階に降りた。
今時スマホを使えないのでは恥かしい、あるいはPRAなどでの待ち時間にインターネットを利用しようと、私用に買った格安のタブレット端末(3200ペソ)も、あっという間にKIAN専用になってしまった。
しかし、ママとパパの部屋に戻ってからが、大騒ぎとなった。ママの命令と、私の部屋で遊んでいたいという気持ちの狭間でKIANはパニックとなり、 大声で泣き続けたのだ。そして「Mommy said go down、ママが降りて来いと言った」と、泣きながら繰り返しママを責めた。こんな光景を目の当たりにして、いかにママの命令がKIANの心の負担/トラウマになって いるか、このままではKIANの人格が破壊されてしまうと危機感を覚えたのは、私ばかりではなく、カーネルも同様だろう。
こんなことがあって、数日後、さすがジェーンも白旗をあげた。パパ・カーネルもジェーンに注意したそうで、これで、当面、ジェーン旋風は収まりそうだ。核家族で、しかもパパがほとんど家にいないという日本の多くの家庭では、ママの暴走に歯止めがかからず、子供たちの人格が破壊されていく。そして、これが、上記の子供たちを取り巻く社会現象を呼び起こしているのだ。