フィリピーノは何故借りたものを返さない 2013年4月28日


「もらう、借りる、預かるは、フィリピーノにとって同義語だ」、とどこかで書いた。フィリピン人にお金を貸しても戻らない、預けておいた金を使われてしまった、なんて経験は誰もがしていると思う。最近もフィリピン通の退職者の方が、「自分が住むために知り合いの家の改築資金にと100万円渡したら、一向に工事が始まるわけではなく、渡したお金は、渡した相手のお産の費用やらに使われてしまった」と嘆いていた。どんな背景であろうが、一旦、お金を渡したら、その使用については、お金を手にした人間の裁量に任されてしまい、その人の考える優先順位で処理されるのだ。もちろん、元の持ち主に断るようなことはしない。だからお金を渡すときは、その使用についての一切の権限を委譲する覚悟をするべきで、それがいやなら自分で直接支払えばいいのだ。

CIMG7288s-4グロリエッタの中華料理のレストランに招待されてご機嫌のKIAN

 先日、夜中に便をしてお尻を洗おうとしたら、タボ(柄杓)とバケツが風呂場にない。私は、フィリピン流に用をたした後、タボでお尻を洗う。だから、タボがないということは死活問題だ。かといって、こんな夜中に大声で、昔流にとトイレから「タボ~~」怒鳴るわけにも行かない。しかし落ち着いて考えてみると、このトイレにはお尻を洗うためのシャワーがついている。これを上向きにお尻に当てると、勢いのある水がお尻を経由して、顔に命中する恐れがあるので、普段は使わないでいるやつだ。

CIMG7307s-4小さなケーキに3本のローソクを立ててもらって、もうすぐやってくる3歳の誕生日の練習だ

  何とか危機を克服して、翌朝、ゲスト用の風呂場を見ると、私のタボとバケツが鎮座している。一体誰が、何故、私の風呂場からタボを持ち出して、しかも、そのまま、ゲスト用の風呂場においておくのか、普段私が使っているものを持ち出したら、私が困るとは思わないのだろうか、などなど、自問自答が続く。しかし、こんなことで大騒ぎをすると、周囲に白い目で見られるから、何事もなかったように、観察を開始する。

CIMG7301s-4お客さんに料理してもらったすき焼きのしらたきをパンシットに見立てて試食するKIAN

 今、夏休みで遊びに来ている小学生の子供達が、私のタボとバケツをゲスト用の風呂場で、体を洗うために使ったことを突き止めた。ゲスト用の風呂場にはもちろんホットシャワーがついているが、普通子供はバケツに汲んだ水をタボを使って体を洗う。しかし、ゲスト用の風呂場にはタボもバケツも置いていなかった。だから私のものを使うよう、マム・ジェーンの指示があったそうだ。マム・ジェーンの指示とあれば、子供達は免罪される。また、彼らにとって借りたものを返すという意識は全くないので、タボを返さなかったことに罪の意識はもうとうない。

CIMG7311s-4今日も誕生会のリハーサルだ

 次に、ジェーンを問い詰める。普段から私は「私のものをいないとき勝手に使っても良い、しかし、使用後必ず返すこと」と言っている、なのに、「彼らは、何故返さないのか」と。ジェーンは私のタボを借りるように指示はしたが、それを「返しておくように」とまでは、指示はしなかったようだ。冒頭に述べたように、一旦渡してしまったら、後は受け取ったものの自由裁量だから、次回使いやすいように、ゲスト用の風呂場においておくのは彼らにとって当然のことなのだろう。そこに元の持ち主の意向は顧みられる余地はない。

CIMG7342s-4サイカで好物の「堅い焼きそば」をほうばるKIAN

 結論として、「今回は良しとしよう、次回、このようなことが起きたら、二度と私のタボとバケツを使うことは許さない」とした。ジェーンは子供達に私の目の前で、きつく私のお達しを伝えていた。しかし、案の定、数日後、再び夜中、タボとバケツが行方不明になっていたのだ。ジェーンに言うと、今度はキム(16才のジェーンの義理の娘)のせいだというが、うそくさい。それで約束どおり、私のタボとバケツは門外不出となったのだ。

CIMG7339s-4長髪を結ってもらって、女の子の気分のKIAN

 事務所でははさみは必須アイテムだ。申請用紙に貼り付ける写真をきったり、封書をきったり、毎日使うわけではないが、これがないと仕事が前に進まないことがままある。そのはさみが、使おうとして机の上のペンホルダーに手を伸ばすとないのだ。そこで、大慌てではさみ探しとなる。しかたがないから、自分の寝室に行って、別のはさみを持ってくる。私の寝室には髪をきるために日本から持ってきた別のはさみがおいてあるのだ。

CIMG7441s-4車の中で従妹のイアを懲らしめるKIAN。これがかれの遊びだ

 後で、はさみがなくなったとお触れを出す。誰も「私、知らない」といったムードだ。しかし、翌日になるとペンホルダーに戻っている。しょっちゅうおきるので、はさみを買ってヤヤに渡した。私のものを使うのではなく、これを使うようにと。しかし、そんな処置は一時的なもので、そのはさみは、すぐにどこかに行ってしまい、私のはさみを持ち出すことになる。何しろ、私のところに来れば、必要なものが確実においてあるのだ。

CIMG7444s-4今度は寝た振りをしてふざけるKIAN

 ある日、再びはさみがなくなった。その日はビコールの田舎に荷物を発送した翌日なので、梱包に使用したのは明らかだ。私の机から持ち出したのはキムで、使ったのはボボイだそうだ。キムが探し回っても見つからない。ボボイは使った後、そのままにしたという。複数の人間が絡むと、責任の所在が不明確になって、キムもボボイも自分の責任とは思っていないが、キムはジェーンに「お前の責任だ」といわれ、不満顔だ。一方のボボイは、はなから知らん顔だ。やがて、はさみが戻ってきた。どこにあったのかと聞くとジェーンはボボイの部屋から見つけたと言う。開いた口がふさがらないが、ここで怒ったりすると、「たかがはさみ一つで」とバカにされそうだから、黙っていることにした。

CIMG7352s-4ペトロンで1000ペソのガソリンを買うと180ペソで車のおもちゃを売ってくれる。中々立派な車に喜びを全身で示すKIAN

 ボールペンも事務所の必須アイテムだ。これがよくなくなる。机に座って何か書きとめようとするとボールペンがない。いくら補充しても、右から左へとなくなる。ボールペンを初めとして事務の必須アイテムは、私の机に来れば必ず揃っているから、なにも自分達で用意しておく必要はない。必要なときは私の机から持っていったほうが手っ取り早い。問題は、使用済みのボールペンを戻すなんて発想は全くないことだ。使う必要があるたびに、私のペンホルダーから一本失敬していくから、他の机の上に2~3本のボールペンが転がっていることもままあり、私が回収しに歩くはめになる。

CIMG7532s-4パパのカーネルがシニア・スーパーインテンダント(大佐)に出世したのでブルーの新しい制服を支給された。次はいよいよジェネラル(将校)だ

 元々事務所は子供の遊ぶ場所ではないと、立ち入り禁止にしていたが、そんなことは糞食らえのKIANの登場で、他の子供達も出入り自由になってしまった。その子供達までも、やたらとボールペンを持っていくが、私がいても何の断りもない。そこで、フィリピンでは安いもので一本5ペソで程度で買えるから、サリサリで1~2ダースくらいを買い占めて、いくらでも補給するように体制を整えた。これで私の苛立ちはなくなった。月に1~2ダース、100ペソ程度の出費は何のことはない。

CIMG7538s-4遊びつかれて寝入るKIAN。寝る子は育つの諺どおり、彼は実に良く寝る

 何故、フィリピーノは人にものを借りて返さないのか。「他人のものを断りも無しに借りて、挙句の果てに返さないとしたら、それは泥棒と一緒ではないか」、とジェーンに問いかける。ジェーンは「赤の他人ならばちゃんと断るし、返す」、しかし、私の場合は、「バスタ(だから)」と言って口を濁す。要は、心がそう命じるのであって、理屈では語れない、と言うのだ。そこで、「私を家族の一員と思っているからか」と、聞いた。ジェーンは意を得たりと、「その通り」と答えた、家族の財産は家族全員の共有財産で、一人の者に帰属しない。家族の誰かが自分の物だと主張して、他のものに使わせたり、分けたりしないと、セルフィッシュと親に叱られる、これがフィリピンの文化なのだ。

CIMG7545s-4日本食材店の山崎に併設されている日本食堂、安いので人気があるが、KIANにはちょっとお気に召さなかったようだ

 ジェーン、キム、ボボイなどは私にとっても、彼らにとってもお互いが家族同然で、家においてあるものは、食い物に限らず、すべて共有財産なのだ。だから、それを使うのは当然の権利であって、返す、という発想は必要ない。だから、使ったら、自分の都合で、どこにでもおいておく。使いたかったら、私がそれを見つけて持っていけばいいのだ。私(ダダ)が、タボやバケツを独り占めにしているのは、きっと「ダダはセルフィシュだから」という風に受け取っているに違いない。

CIMG7549s-4近所の友達(サイラ)と遊ぶKIAN

 土地の購入や商売の名義借りでも、それがごく親しい人の場合は、共有と感じているに違いない。誰がお金を出そうとも、それがものになった途端、共有財産となるから、すでにその人のものでもあるのだ。会社の60%の株式を持たせるのも同様だ。誰が金を払おうが、自分が株式名簿に名を連ねたときから、自分のものという意識をもつ。だから、ほっておくと知らぬ間に処分されてしまう恐れさえある。その人にとって、何が優先するかという問題だから、自由に処分できる状態にしておいたら、早晩、なくなってしまうだろう。それが、他人だとしても、借りたもの、預かったものは、もらったものと大差ないから、やはり、その人の優先順位で処分されてしまうことになってしまう恐れがある。しかしこれは、フィリピンでは決して悪いことではないのである。

CIMG7980s-4サイカでは、気を利かして醤油をついでくれる。中々気遣いのできるKIANだ

 しかも、名義借り、すなわちダミーは法律で禁止されているから、下手な契約や覚書を交わしておいたとしても出るところへ出れば、効をなさない。泣き寝入りするしか方法はないのだ。だから、名義借りはご法度だが、土地の保有や小売業はフィリピン人に限定されているから、どうしても名義を借りなければならない状況が出てくるが、どうすればよいのか。

  その場合、資金を出して土地を買ってもらう名義人に対して、ローン契約を結んで、その担保として土地を押さえることだ。ローン契約を結んで、さらにその事実を登記書(タイトル)に裏書をしておけば、法律上、権利は保障される。さらに裏書したタイトルは、自分で保管する。かなり面倒くさい手続きになるが、それをやっておかないと後で泣きを見る羽目になる。また、そうやってきちんとしておけば、当のフィリピーノも、共有財産という思いを、はなからもつことはないだろう。一方、逆に家族とはみなしてくれないだろうが。

CIMG7981s-4同じくサイカでエビフライをほうばるKIAN。目の前にあるのは定番の好物の「堅い焼きそば」だ。

 さらに、その土地について、長期リース契約(25年+25年)を結んで、ローン返済と賃料を相殺させれば、土地の使用権も確保できる。この、長期リース契約もタイトルに裏書すればもっと確実だ。しかし、その場合、リース契約にまつわる税金(12%のVAT)を支払い、土地に立てた建物の固定資産税など、かなりの費用がかかってしまうので、躊躇されるところだが。

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大好きなテレビ番組ではテレビのキャラクターに合わせて、体を動かす

 土地建物の購入費用としてPRAへの預託金を使用することができる(クラシックの場合)が、その場合、リース契約を裏書することが必須条件だ。裏書は、登記所へ行ってお願いするだけではなく、上記のVATの支払いをおこない、税務署の許可証がないと、受け付けてもらえない。そのため。予想外のの費用がかかることも覚悟しておかなければならない。いずれにせよ、フィリピンに家族として呼べるような人がいない場合は、土地を買おうなどという気を起こさないで、賃貸で済ますのが無難で面倒がない。

CIMG8051s-4事務所の近所では3月末になると黄色い藤のような花が見事に咲く。KIANが生まれたときに始めて気がついたのだが、この花が咲くとKIANの誕生日が近いと感じる。早いもので今年ですでに4回目の花見となる。

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