フィリピン経済の底力 2010年12月21日


最近ある退職者の方から、フィリピンのGDPはベトナムに抜かれ、そしてカンボジアにも抜かれつつあると話していた。戦後、東南アジアの雄であったフィリピンがマルコスの腐敗政治にうつつを抜かしている間にタイ、マレーシアそしてインドネシアの後塵を拝しているとは聞いていたが、まさかベトナムやカンボジアまでに、とは意外だった。

 しかし、地方はまだしもマニラ首都圏、特にマカティの建設ラッシュは目を見張るものがある。マカティだけでも20件程度の大型コンドミニアム建設プロジェクトが動いている。一体これだけのコンドミニアム・ユニットを誰が買うのか、まさに庶民の購買意欲が沸騰しているとも言える。ちなみにこれらのコンドミニアム・ユニットは25~50平米と小型で価格も2~5Mペソ (400万~1000万円)と中間層が手が届く範囲に設定され、かつての富裕層向けの大型コンドミニアム・ユニットは影を潜めている。

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(小売業界の雄、SMが建設中のコンドミニアム群JAZZ、マカティの好立地に一大コミュニティを出現させようとしている。JAZZの完成模型、まさに住居、ショッピング、レジャーが一体となった街を形成しようとている。SMはこのほかにもマニラ首都圏に10件近いプロジェクトを遂行中だ)
 
 確かにリーマン・ショック以降、フィリピン経済を牽引していた海外投資が冷え込み、既存の日系会社の駐在員も激減し、マカティのカラオケでは閑古鳥が鳴いていた。従来の主要産業であった、バナナ、パイナップル、ココナツなどの農産物の輸出では一国の経済を維持することはできない。そうなるとフィリピンは不況の真っ只中にいるはずだ。

 しかし、ここで忘れてはならないのがフィリピン最大の産業OFW(Oversea Filipino Worker、海外出稼ぎ労働者))の存在だ。国民の1割が海外に暮らし、彼らのフィリピンへの送金は軽く年間1兆円を超え、フィリピンの国家予算に匹敵する。この金額は公式な送金だけであって、裏銀行経由の送金も加えるとその倍になるという。

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(マカティ、ロックウエルとインターナショナル・スクール跡地のコンドミニアム・プロジェクト。ここにも高層ビル群が出現しつつある)

 仮に3兆円の外貨が毎年流入するとすると、約9千万人の国民がが暮らすフィリピンでは、一人頭、33千円となる。子供も含めて一家族が5人とすると、年間17万円、月々14千円(7千ペソ)の収入となり、フィリピンではこの金額で家族の生計が成り立つ。すなわちOFWの海外送金は国民全部を養っていける金額に達しているのだ。もちろん、これらは国民に平均して配られるわけではないので、貧困層の一掃というわけには行かないが、家族から一人のOFWを出せば、その家族は安泰で中間層の仲間入りをして、コンドミニアムユニットの購買層にもなるのだ。

CIMG2038s-1CIMG1235s-1 (完成が間近いマニラ高架鉄道(LRT)環状線とルソン南高速道路の2階建て高速道路(スカイウエイ))

 果たしてフィリピンのGDPには、このOFWの海外送金は考慮されているのだろうか。これらはフィリピン国内での生産の結果ではないから、この国のGDPにカウントすることは出来ないだろう。だから、フィリピンではGDP=購買力、ではないのだ。仮にフィリピン国内の経済が破綻してもフィリピンはOFWの送金で国民全部が生き延びていける。そのの収入がGDPに全く反映されていないことになる。

 遠くはアジア通貨危機、そして最近はリーマン・ショックで、フィリピン経済はほとんど打撃を受けなかった。何故?とフィリピン人に聞いたら、「フィリピンはずーっと不況で、リーマンだろうが何だろうが、これ以上不況にはならない。それにフィリピン人は貧しさに慣れているから、食べるものが半分になっても、家族で分け合って生きて行けるのよ」と力強い回答だった。一方、これが飽食と他力本願に慣れきった日本人だったらどう反応するのだろうか。

 フィリピンは、兆を超える外貨が全世界からコンスタントに流入して、ドバイのバブルがはじければOFWはサウジに向うなど、収入の糧を全世界に求めることができるという、国家的な究極のリスク分散の仕組みが出来ているのだ。

CIMG3872s-1CIMG3867s-1 (スービックの造船所とコンテナヤード、ここでは大型の投資が続いている)

 フィリピンでは平日の昼間から街角でブラブラしている若者を多く見かける。こんなに働かない人がたくさんいて、どうやって食べているのだろうかと、いつもいぶかる。しかし、彼らも、いつかOFWとなって一家のブレッド・ウイナー(大黒柱)として家族を支える日を夢見ている。彼らはそれまで世話になった家族を決して裏切らず、海外に出て働くチャンスが来たらせっせと仕送りして、フィリピンに残された家族を養っていくのだ。

 まさに、フィリピン経済の底力は、この家族の絆にあるのだ。

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